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金沢家庭裁判所 昭和43年(少)73号 決定 1968年2月15日

少年 B・N(昭三一・八・二六生)

主文

この事件を石川県中央児童相談所長に送致する。

少年を親権者(父母)および少年の意に反しても教護院石川県立加能学園に連戻すことができる。但し、昭和四三年三月一六日までの間に連戻しする場合に限るものとし、右期間経過後は連戻しに着手することはできない。

理由

本件送致事実の要旨は、少年は昭和四二年一一月一五日当裁判所において教護院送致決定を受け、同月一六日主文掲記の教護院に収容されたものであるが、昭和四三年一月一日、保護者の強い要望により、一週間の期限を附して一時的な正月帰省を許したところ、右期限経過後も帰園せず、保護者(主として父)はその後度々の催告、担当教護、児童相談所係官、その他関係機関による数次の説得に対して全くこれに従わないばかりか、右係官らに対し脅迫とも受取れる暴言を以て威迫的態度に出ているものであつて、このまま放置することは少年の福祉の上にも極めて有害であるから、今後六ヵ月間保護者らの意に反して教護院に連戻すことができるとする取扱いを認める必要があるので本件送致におよぶ、というのである。

そこで審理するのに、当裁判所の取調べた一件記録並びに石川県中央児童相談所から取寄せた児童記録に参考人らの陳述等を綜合すると、

少年は、昭和四二年一一月一五日、窃盗触法事件により当裁判所において教護院に送致する旨の決定(この決定に対しては抗告の申立なくその頃確定した)を受け、同月一六日主文掲記の教護院に収容されたこと、同年一二月二三日急性虫垂炎を患い石川県聖霊病院へ入院し、同月三〇日退院した(その他同所収容中、特に問題となる点も見受けられなかつた)ため、保護者らにおいても一時帰宅させることを強く望んだなどの事情もあつて、昭和四三年一月一日から一週間病後静養を兼ねて正月帰省を許されて自宅に帰つたこと、その後現在に至るまで右教護院に帰園せず、自宅にあつて時々は、教護院収容前通学していた小松市立○○小学校に登校し以前の担任学級に出席したりしているが、勉学の意欲を全く缺き、勝手な振舞いや遊びのみを事とし、他の学級や他の生徒とも事を構え、時には暴力沙汰におよぶこともあつて、その生活、性格の乱れは極めて大となりつつあること、これに対して保護者(主として父)は、以上の少年の所為については全く関心を示さずにこれを放置し、少年を帰園せしめるようにとの関係各機関による勧告、説得にも全く応じないばかりでなく、逆にこれら係官に対して暴力を加えかねまじき気勢を示して脅迫的言辞や暴言を浴せる有様であつて、説得等による任意的な少年の帰園は全く期待されない状態にあること、等の事実が認められ、当裁判所がこの間の事情について意見、弁解を述べる機会を与えるため呼出した期日にも保護者らはいずれも出頭しなかつたので、以上認定の外形的事実の他何らかの事情が介在するか否かについては、これを確める途がないが、上掲各証拠を綜合すれば、以上の他特段の事情は特に存せず、保護者の無理解によるものと推定することが相当である。

そうすると、収容後短期間経過しているに過ぎず、教護の実も今後に期待するところ大であつて、未だ矯正の実も挙つておらない現時点において、特に解除等を認めるべき特別事情の存しない本件については、さきに当裁判所のなした保護処分を継続することが相当であつて(この意味においては、教護院の長のなした今回の措置は従前の経過に照すと適切を欠く措置といい得る面も存し、今般の問題の責任の一半は教護院側にもあるものといわなければならない)、強制的にでも教護院に連戻すことが必要である。

ところでその連戻すべき方法については、少年院の場合の如き明文の規定(少年院法第一四条、少年審判規則第五六条以下)を缺くため、果して許されるのかどうか、またその形式をどうするかについて各種の考え方が存し得るところではあるが、当裁判所は、このような場合少年法第六条第三項、第一八条第二項による強制的措置の一環として、保護者らおよび少年の意に反しても連戻すことが許されるものと考える。蓋し、児童福祉法の適用がある少年について必要とされる強制的措置については、これを施設の内部において行われるもののみに限定することは相当でなく、(かく解しなければ本件のような場合裁判所の言渡した保護処分は実際上無意味になつてしまう。)少年の福祉のため要求される合理的な必要性の範囲内においては、教護の目的を達するため必要な手段についてはこれを認めるべきものと考えられ、上記のとおり現行法の下においてはこれについての別段の規制も制限も存しない(何らかの規制が存しないことから、これらの裁判なくして教護院側で強制的に連戻し得るものと解することが不当なことは、例えば犯罪者予防更生法第四一条の規定と対比しても明らかである。)からである。そして、その方法としては、少年院の場合における少年審判規則第五六条以下の規定の趣意により処理されるべきものと考える。(従つて本件送致意見のように六ヵ月間の有効期間とし、この間に発生し得べき同様事態にも随時利用し得るよう備えることは許されない。)

そこでこの期間を三〇日間を限度としてこれを許すべきものとし、

よつて主文のとおり決定する。

(裁判官 寺本嘉弘)

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